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第三舞台解散公演「深呼吸する惑星」 「今」の苦さをつきつける80年代の遊戯感覚
 

 現実の苦さが累進する現代日本の精神の危機は底知れない。かつて第三舞台に熱狂した観客ももう40代以上、現実の酷薄さを前に砂をかむ思いだろう。自殺者を増やしつづける孤独の深さは80年代の感覚をもう通り越してしまっているのではないか……。そんな思いも胸のうちにきざす。

 1970年代につかこうへいが時代の光と闇を体現する役者を前面に出して、一大ブームをつくった。つかが演劇界に風穴を開け、大学の演劇研究会(劇研)から人気劇団が次々と生まれる状況が生まれた。80年代はカレッジ・ポップスならぬカレッジ・シアターが隆盛する。東大の夢の遊眠社の次に人気の頂点をきわめたのが早稲田の第三舞台だった。大隈講堂裏特設テントから下北沢の小劇場ザ・スズナリに進出したころから見ているが、倍々ゲームで動員が増える勢いに目を見はったものだ。

 80年代に活躍した演劇人の多くはその後の時代を乗り越えることに、相当苦労した。阪神大震災と地下鉄サリン事件のあった1995年あたりを境に、80年代的な遊戯感覚が力を失ってしまうからだ。危機がそれだけ深刻になったということだろう。

 ここ数年は明治の第三エロチカ、同志社のM.O.Pなど80年代演劇の雄がやはり解散公演をして区切りをつけた。第三舞台の場合、2001年の「ファントム・ペイン」以来、活動を封印していたから、解散の報に「なぜ今」の感はぬぐえなかったが、やはりいつか決着をつけておく必要があったのだろう。喪服のシーンには、時代と劇団を葬送する作者の思いがにじんでいる。

 理屈はさておき、この同窓会的な舞台は観客を大いに喜ばせる。筧の瞬間芸の爆発的な力、大高のシニカルなセリフまわし、長野の端正な演技とギャグとの対照、筒井の調子外れの明るさ、小須田の屈折した孤影、山下の哀愁を秘めたおおらかさ。

 今や、それぞれ別個に演技の道を進む身だが、集まればこのメンバーでしか生まれ得ない魅力的な間合いが復活する。皆、サービス精神旺盛、お約束の演出も忘れない。観客からすれば、幻とも見まがうファンサービスデーを楽しめる最後の機会となっている。

 役者のうち、長野、小須田の成熟が心に残った。たとえば長野は美しい日本語の、硬質なセリフ劇に取り組めば、持ち味が出るだろう。小須田ももっと活躍できる逸材だ。ファンも演技の進化を見たいはずだ。

 サヨウナラ、愛しの80年代!

(編集委員 内田洋一)

(2/2ページ)2011/12/5 7:00 日本経済新聞

筧利夫が活躍する=写真 田中 亜紀

左から長野里美、筧利夫、高橋一生=写真 田中 亜紀